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金沢地方裁判所 平成7年(わ)291号 判決 1996年3月29日

本店の所在地

金沢市御影町九番二四号

株式会社カヨウ

(右代表者代表取締役 鍋島隆司)

(代表者の住居 金沢市中央通町二二番二号)

本籍

金沢市御影町一三七番地

住居

金沢市中央通町二二番二号

会社役員

鍋島隆司

昭和一六年四月三日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官石山宏樹出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社カヨウを罰金二七〇〇万円に、被告人鍋島隆司を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人鍋島隆司に対し、この裁判確定の日から三年間その懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社カヨウ(以下「被告会社」という)は、金沢市御影町九番二四号に本店を置き、機械器具の販売業を営むもの、被告人鍋島隆司(以下「被告人鍋島」という)は、被告会社の代表取締役として、同社の業務全般を統括しているものであるが、被告人鍋島は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空仕入を計上する方法により所得の一部を秘匿した上、

第一  平成四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が、一億二五五三万二七七〇円であった(別紙一修正損益計算書参照)にもかかわらず、同五年二月二六日、金沢市西念町一〇三街区一二番地所在の所轄金沢税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三六一万四三二一円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度分の正規の法人税額四五二五万七〇〇〇円(別紙四脱税額計算書参照)を免れ、

第二  平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が、九三三一万九六五〇円であった(別紙二修正損益計算書参照)にもかかわらず、同六年二月二八日、前記金沢税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が五一三万七六六七円で、これに対する法人税額が二八万六三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度分の正規の法人税額三三〇八万二五〇〇円と右申告税額との差額三二七九万六二〇〇円(別紙五脱税額計算書参照)を免れ、

第三  平成六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が、九二九六万四二四六円であった(別紙三修正損益計算書参照)にもかかわらず、同七年二月二八日、前記金沢税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一〇八四万六五四八円で、これに対する法人税額が二二五万七六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度分の正規の法人税額三三〇五万一九〇〇円と右申告税額との差額三〇七九万四三〇〇円(別紙六脱税額計算書参照)を免れた。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人鍋島(被告会社代表者)の当公判廷における供述

一  被告人鍋島の検察官に対する供述調書(五通)

一  熊倉徳雄及び久野章子(二通)の検察官に対する各供述調書

一  高嶋洋及び笹賀清一の収税官吏に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書(仕入高の確定、特に修正損益計算書の勘定科目の1の仕入高につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(仕入値引戻し高の確定、特に前記科目の2の仕入値引戻し高につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(福利厚生費の確定、特に前記科目の3の福利厚生費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(支払手数料の確定、特に前記科目の5の支払手数料につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(認定利息の確定、特に前記科目の6の受取利息につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(脱税経費の確定、特に前記科目の8の脱税経費につき)

一  収税官吏作成の査察官調査書(事業税認定損の確定、特に前記科目の9の事業税認定損につき)

一  登記官作成の商業登記簿謄本

一  検察事務官作成の捜査報告書

判示第一、第三の各事実につき

一  収税官吏作成の査察官調査書(租税公課の確定、特に前記科目の4の租税公課につき)

判示第一の事実につき

一  金沢税務署長作成の証明書(平成四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分の確定申告に関するもの)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の査察官調査書(雑収入の確定、特に前記科目の7の雑収入につき)

一  金沢税務署長作成の証明書(平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分の確定申告に関するもの)

判示第三の事実につき

一  金沢税務署長作成の証明書(平成六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分の確定申告に関するもの)

(法令の適用)

一  被告会社

1  罰条 法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

2  併合罪の処理 平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、四八条二項

二  被告人鍋島

1  罰条 法人税法一五九条一項

2  刑種の選択 懲役刑を選択

3  併合罪の処理 平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の罪の刑に加重)

4  刑の執行猶予 右改正前の刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、昭和三六年ころ以降個人で機械器具の販売業等を営み、同四〇年からは会社組織で右事業を続けていた被告人鍋島が、平成四年から同六年までの三年間の事業年度の被告会社の法人所得に関し、以前に取引関係にあった知人に依頼して、虚偽の請求書、納品書等を被告会社宛に送付してもらう手口で架空仕入を立て、所得の一部を秘匿し、合計一億円余りの法人税をほ脱したという事案である。

そのほ脱税額は高額であるが、ほ脱率も、平成四年の事業年度分については一〇〇パーセントであるほか、三年間の平均でも約九七パーセントの高率であり、いずれにおいても悪質な脱税である。

そして、被告人鍋島は、右架空仕入に対する支払手形を知人に渡して現金化させた後、自分に現金を戻してもらうという手口で捻出した資金を、個人的な趣味から行っていた競走馬の取得、育成等の事業に充てていたものであり、動機の面においても斟酌すべきものがあるとは言えない。また、証拠上も本件以前の数年前から同様の行為をしていたことが明らかであり、本件は常習的な犯行であると認められる。以上の事情を考えると被告人鍋島の刑事責任には重いものがある。

しかし、被告会社は、本件起訴に係る三年分の法人税について、修正申告の上本税、重加算税、延滞税、事業税等必要な納税をしていること、被告人鍋島は国税局の査察調査を受けた後、捜査、公判を通じて事実を認め、また、本件の原因となった競走馬の取得、育成の事業から手を引くこととし、今後は適正な納税を心がけることを誓って反省の態度を示していること、同被告人には前科はないこと、など斟酌すべき事情もあるので、これらを勘案して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(弁護人 林武夫)

(求刑 被告会社につき罰金三〇〇〇万円、被告人鍋島につき懲役一年六月)

(裁判官 石山容示)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙4

<省略>

別紙5

<省略>

別紙6

<省略>

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